シャーシ(車台)について
トレーラーハウスは、牽引(けんいん)されて道路を走行する「被けん引自動車」です。上物と呼ばれる居住空間の下には、走行する為の機構であるシャーシが必要です。このコラムでは、そんな縁の下の力持ち、シャーシについてご紹介していきます。
シャーシとは
・シャーシの定義
まずは一般用語としてのシャーシについて、基本情報をご紹介します。シャーシは、「フレーム」「骨格」「枠組み」などの意味を持っており、「シャシ」「シャシー」「シャーシー」とも呼ばれる事もあります(呼ばれ方として最も普及されているのが「シャーシ」と判断したため、当社はシャーシと呼んでいます)。
乗用車の場合ですと、シャーシとは本来、車体であるボディ以外の全てを表します。詳しくは割愛しますが、実際には現在の多くの乗用車はモノコック構造(フレームとボディが一体となった構造)により製造されていますので、今回ご紹介するトレーラーハウス用シャーシとは形状が異なっています。
・コンテナ輸送用シャーシ
トレーラーハウス用シャーシに近いものとしては、コンテナ輸送用シャーシが挙げられます。コンテナ輸送用シャーシとは、海上コンテナや鉄道コンテナを陸上輸送する際に使われる、車輪の付いた車台を指します。
コンテナを運んでいるトレーラーを見かけた事のある方も多いと思いますが、コンテナを載せている下の部分がシャーシ、という訳です。トレーラーハウスのイメージとしては、そのコンテナ部分が部屋になったもの、と考えてもらえれば分かりやすいかと思います。
コンテナ輸送用シャーシの特徴としては、シャーシ自体にエンジンなどの動力装置が付いていない、という点です。従って自分では動きませんので、トラクターヘッドによって「牽引」される「被けん引車」という区分になります(トレーラーハウス用シャーシも同じく「被けん引車」の区分です。)。
トレーラーハウス用シャーシについて
それでは次に、トレーラーハウス用シャーシについてご説明します。コンテナ輸送用シャーシと同様に、トレーラーハウス用シャーシも道路運送車両法では「被けん引自動車」という分類となります。ここから、この「被けん引自動車」を更に細かく見ていくと、4種類に分類される事が分かります。
O1(オーワン):車両総重量が0.75 t以下の被けん引自動車
O2(オーツー):車両総重量が0.75 tを超え、3.5 t以下の被けん引自動車
O3(オースリー):車両総重量が3.5 tを超え、10 t以下の被けん引自動車
O4(オーフォー):車両総重量が10 tを超える被けん引自動車
※欧州自動車型式認証制度の車両区分に基づく分類
この中で、トレーラーハウス用シャーシはO2(オーツー)カテゴリに含まれます。ちなみにO1(オーワン)カテゴリは、ボートトレーラーなどの小型タイプを指し、けん引免許が不要という特長があります。
・車両総重量
トレーラーハウス用シャーシとして使用されることの多いO2(オーツー)カテゴリを詳しく見ていきます。定義は「車両総重量が0.75tを超え、3.5t以下であること」となっています。ここで注目したいのが「車両総重量」という言葉です。これは「シャーシ重量」だけでなく、「積載物重量」を含めた重量という事です。具体的な計算式で表すと、次のようになります。
【計算式】 3.5t[車両総重量]≧ シャーシ重量+積載物重量
従って、実際に当社製品であるCH20シャーシ(シャーシ重量:990kg)で置き換えて計算すると、
【例】 3.5t[車両総重量]≧ 0.99 t+積載物重量 → 積載物重量 ≦ 2.51 t
となり、積載物の最大重量が2.5 t(2,500kg)まで、という解釈になります(最大積載量は、小数点以下の2桁目が50㎏未満の場合は切り捨て)。トレーラーハウスを正しく利用するためには、この重量制限の中でどのように空間を作るか、という観点が必須になります。
・最大積載量
「最大積載量」という言葉にも触れておきます。これは、「車両総重量」から完成したトレーラーシャーシの重量を引いたもので、残りどれだけの重量を積載出来るか、を表します。
【計算式】 最大積載量=3.5t[車両総重量]ー トレーラーハウス重量[シャーシ重量+積載物重量]
上記のCH20シャーシの例ですと、ハウス部分の重量を2.5 tで製作した場合、それ以外に積載できる重量はゼロkgとなりますし(例A)、ハウス部分の重量を2tで製作した場合は、それ以外に積載できる重量は500kgとなる事が分かります(例B)。
【例A】 最大積載量=3.5 t[車両総重量]ー3.5 t[0.99t+2.5 t] → ゼロkg
【例B】 最大積載量=3.5 t[車両総重量]ー2.99t[0.99t+2 t] → *0.5 t(500kg)
*車検証に記載される最大積載量は小数点以下の2桁目が50㎏未満の場合は切り捨てとなります。
言うまでもありませんが、この重量をオーバーして走行すると「過積載」、つまり道路交通法違反となります。過積載は重大事故の要因であり、道路損傷も引き起こします。この基準は遵守する必要があります。
ところで、皆様の中には「それならば1つ上のクラス、O3(オースリー)カテゴリでトレーラーハウス用シャーシを作ればよいのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。カテゴリを上げれば最大積載量が増加します。積載できる物の可能性も格段に広がりますので、確かに魅力的です。
但し、O3(オースリー)以上のカテゴリでシャーシを製作すると、2つのデメリットも生じてしまいます。
・制動装置の問題
トレーラーハウス用シャーシには、安全な走行を実現するため、制動装置(ブレーキ装置)が付いています。O2(オーツー)カテゴリには、電磁ブレーキまたは慣性式ブレーキと呼ばれる制動装置が認められています。これは構造が単純で比較的安価なコストで搭載できるため、シャーシ自体を低コストで製造出来ます。
一方、O3(オースリー)以上のカテゴリになると、エアブレーキ等の「圧力式ブレーキ」と呼ばれる制動装置が必要です。これは装置自体が非常に高コストで構造も複雑化するため、結果的に製造されるシャーシ自体が非常に高価になってしまいます。
・牽引車の制限
上記と関連しますが、圧力式ブレーキは制動力が強力なため、結果的に牽引車も限定されてしまいます。具体的には、乗用車での牽引走行は不可能で、大型トラクタのみが対象となります。誰もが大型トラクタを持っている訳ではありませんので、非常に限定的なユーザーのみが利用できるトレーラーハウスとなってしまいます。
以上より、当社では皆様がお求めやすく使いやすい、O2(オーツー)カテゴリでの製品作りを進めています。
トレーラーハウス用シャーシの正しい選び方、注意点など
「これからトレーラーハウスの製造を始めてみよう」という方にとって、トレーラーハウス用シャーシを入手する事は、完成までのハードルを大きく下げる効果的な手段です。ですが、どんなシャーシでも良いという訳ではなく、慎重に選ぶ必要があります。
・車両総重量、最大積載量について説明があるか
前述しましたように、トレーラーハウス用シャーシは、基本的にO2(オーツー)カテゴリですから、車両総重量は3.5 tまでと法律で定められています。また、最大積載量という考え方も遵守する必要があります。
購入する際には、その製品の「シャーシ重量」「最大積載量」が適切に情報開示されているかをしっかりと確認しましょう。不明な点があればメーカーや販売店にしっかりと確認し、そこで説明不足と感じたり、「必ずしも守る必要はない」など曖昧な返答を受け取るようでしたら、その製品は避けておいた方が賢明です。
・ブレーキなど制動装置について信頼出来るか
牽引されて走行するトレーラーハウスにおいて、特にブレーキ性能は重要です。有り得ない話ですが、単に鉄製のシャーシにタイヤが付いているだけの製品では、走行中の制動力は皆無です。早晩、重大事故の決定的要因となってしまいます。
使用されているブレーキシステムが信頼出来るものかどうか、こちらも購入される製品をしっかりと確認しましょう。
・車検(ナンバープレート)が付いているか
車検付(ナンバープレート付)のトレーラーハウス用シャーシを購入する事で、問題は解決します。なぜなら車検を取得するために、車検場にて各種検査を行なうからです。ライトなどの灯火が正しく点灯するかはもちろん、ブレーキのテストも行なわれますので、間違いなく安全に走行可能である事が証明されます。
車検付トレーラーハウス用シャーシを購入すれば、法的には明確な自動車として取り扱われます。製作したトレーラーハウスも自動車ですから、建築物かどうかの議論にはなりません。全国どこでも安心して利用する事が出来ます。
まとめ
トレーラーハウス用シャーシについてご紹介してきました。住宅の基礎部分と同様に、このシャーシ部分がトレーラーハウスを支えているのです。重量の問題やブレーキ性能など、必要な機能をしっかりと吟味する事で、「いつの間にか違法なトレーラーハウスになっていた」事を避けられます。皆様にとって、本記事が今後のシャーシ選びの参考になれば幸いです。
原案:中村
執筆:齋藤
校正:野坂